竹脇 無我

二枚目というイメージに対し、潜在的にはいつもプレッシャーを感じていたという竹脇さんが、うつの症状に気づき始めたのは、仕事的にもひと段落ついた48~9歳のころでした。

竹脇さんの場合は、うつだけではなく、躁の症状もあったようです。
「躁状態というと楽しくてよさそうに見えるけど、本人にとってはうつと同じくらい辛いんだ。体や心がどんなに疲れていても、なんだか楽しくて仕方ないわけだから。そして躁の状態が高い分だけその後にやってくるうつが普通の人よりもひどい。それに比べると躁を伴わない、うつだけの人は治りやすい。極端な話、うつはゆっくり休んで、くすりをのんでいればきっと治るんだから、心配いらないよ。まぁー、心配しなくてもいいといっても、うつの人は常に何かを心配してるものだからね(笑)。」

竹脇さんの初期の症状は、何をするのもおっくうで、電話の受話器を持つのも重く感じられたほど体中がだるかったとか。そのころの竹脇さんは、台詞覚えもままならず、撮影の現場に行くことすら拒否してしまう状態でした
それでも、そんなに簡単に「はい、やめます!」というわけにはいかず、かなりの量の仕事をこなす日々が続いたといいます。「あんまりだるいから、毎日酒を飲んでましたね。でもこれははっきり言って逆効果だったと今は思う。舞台に出ても何も覚えていない。セリフも何も。だから舞台の上で自然に出てくるセリフしか言わない。そのときは、僕を使うほうも悪いんだよ、なんて思って自分を納得させてたね。」

「冬の寒空の下、思い立ったようにマンションの屋上にビールを持ってあがるんだ。屋上に出るとまず、あぁ寒いなって思うんだよね。そして、ここから飛び降りたら楽になれるかな、なんて思うんだ。でも、その後にもし飛び降りるなら絹のパジャマに着替えようかなって考える。木綿とかだと格好悪いんじゃないかってね。で、下を見ると、すごーく小さく自動車の屋根が見えるんだけど、あの自動車がじゃまだなってまた思う。こんなことをやっているうちは、絶対死なないよね(笑)。」

うつの症状が出始めたころから3年目となる平成8年、竹脇さんはうつ病の治療とお酒で傷んだ体の治療もかねて約5か月の入院を決意します。その後も何度かの検査入院をくり返したが、治療を続けた結果、今はすっかり良くなったそうです。
「入院して最初に嬉しかったことは、おばさんが毎日敷布をかえてくれたこと(笑)。とにかく寝ていたかったからね。またあの白いシーツの上で眠れると思うと嬉しくて。病院はいいと思うよ。ほんとうに辛かったら入院したほうがいい。安心して身を任せていられるから。僕の場合は、信頼できる先生にも出会えたから、病院ではすごく安心していられたね。」

3年ほど前に竹脇さんは、その先生に出会いました。今でもお互いになんでも話し合える関係を保っています。「信頼というかね、先生のほうもいろんな辛いことを僕に話してくれたから。本当に何も隠すことがない関係だね(笑)」
そして、この先生とかわした会話がきっかけで、うつ状態から抜け出す勇気をもらったという。「先生のお母さんは私の大ファンで、お父さんとふたりで病室にお見舞いにきてくれていたんだ。ある日、何となく“そういえば、お父さんとお母さんはどうしてます?”って先生に聞いたら“今、母はがんで入院してます”って言うの。その後しばらくして、また聞いたら“あぁ、死んじゃいました”ってかるーく言ったんだよ。そのとき“うつ病の僕を治す先生のほうが、私生活では僕よりもつらいんだな”って思ったわけ。“この人も大変なんだな”って。それに比べて僕なんか、入院して飯食って、寝て散歩して(笑)楽なもんだって思ってね。」

うつがひどいころ、身のまわりの世話をしてくれたのが、同じマンションの隣の部屋に住んでいたお姉さんでした。「10才年上の姉は、おれが生まれたころからかわいがってくれててさ、もう母親がわりと思ってるんだよね。ほんとうるさいから喧嘩ばっかり。これだけ面倒みたのに、お返しがない!ってね(笑)。僕の周りはみんな、ずけずけものを言う。でも僕は言葉で優しくされると“うそっぽい”って感じるし、優しくされること自体あまり好きじゃない。だから逆にありがたかったね。優しい言葉よりも、うつで辛かったころに姉の息子と3人“川”の字になって寝たりとか、そういうことのほうがとても安心できたことを覚えているよ。」

うつには、やっぱりくすりがいちばん効くという竹脇さん。「今、うつのくすりはかなり進歩してるからね。自分にちゃんと合うくすりをのみ続けてたら、だんだんとくすりをのまなくても眠れるようになるんだ。でも、その人にあったくすりを処方してもらわなきゃだめ。だから病院できちんと医師の診断を受けることが大切だと思う。今、僕がのんでいるくすりも担当の先生が、僕に合うくすり、合わないくすりを研究して、一番合うものを選んでくれたものだしね。」

「そうだ、いいことを教えてあげる。」と、竹脇さんがうれしそうに話し始めたのは、お姉さんの家で飼っていた“パクちゃん”という金魚の話だった。「うつの人はね、金魚を飼うといいよ。2匹くらいね、ちいさいときから飼うの。えさも3~4日に1度やればいい。それで、えさをやるときには必ず、金魚鉢をコンコンとたたくの。そうやって餌をやりつづけて1か月くらいすると、コンコンとたたくだけで金魚が口をあけて浮いてくる。それがすごくかわいいんだよ。本当にいじらしいよね。」
最初はおっくうだった餌やりも、次第に楽しみになりはじめたという。小さなことでもいい、無理をせず少しずつ何かを始めてみるのが、うつには大切だと言います。

「今は、うつ病で辛いかもしれないけど、うつはね、時間がかかっても“ちゃんと治る病気”なんだよ。ゆっくり休んで、ちゃんと治療を受ければね。」